「怒りの日、その日こそ
ダヴィドとシビルラの予言のごとく
この世が灰に帰すべき日なり」
戦星の到来、ファクセリオ者のいうところの「怒りの日」は彼らのいうような邪な者を廃し、正しい者を約束の地へと誘うようなものではない。
我々(ソルコムに委託された考古学チーム)は、以前に戦星が訪れた際に我々に残した爪痕を幾つかの側面から調査した。
「民のおそれはいかばかりか
審判者がおごそかにすべてを
判きに来たりたもうとき」
たとえば、地質学的見地から当初TheBOOKの記述により予想された全世界的な大規模降雨による大洪水は否定された。
ただし一部海岸地帯の水没は確認されている。名高いサスペディロ都市群跡がその代表例だ。
であるならば、戦星の到来する日、つまり「怒りの日」に何が起こるのだろうか?
1000年前、その日に起こった出来事の予測を述べる前に、この世界が怒りの日以前に見せた変化を説明したい。
「この世の墓を通じて
奇しきひびきを伝えるラッパが
全ての民を玉座の前に集めるべし」
「死と自然界はおどろくべし。
民が審判者に答えるべく
よみがえるとき」
怒りの日、そのおよそ200年前より世界の日照時間、平均気温は上昇し、降水量も増す。それにより世界の耕作可能面積は増加する。
気候も安定し、それまで人類を悩ませていた災害は減少し、また10年周期で発生した大規模な致死性の伝染病の流行も無くなる。
「そのとき、この世の判きの
すべてを記せる
書が持ち出されるべし」
人口は激増する。彼の時に存在した国家群も、以前のように持たざる国が連合し、もてる国を襲う・・・そのような収奪国家群は姿を消す。
諸国家はより効率的な手段、たとえば国内産業の育成、活発な交易の奨励・・・で富を得るようになる。
それらはテクノロジーの驚異的な進歩につながる。
「審判者が判きの座に着く時
かくされしことは全て知られ
ことごとく判かれるべし」
「あわれな我は何を語るや
誰にとりなしを頼むや
義人として不平を持つべし」
しかしやがて「進歩」は限界に達する。
怒りの日までの最後の半世紀ほどに次の変化が見られる。
気候の不安定化、理由の判らない出生率の低下、克服したはずの伝染病の再流行。そして、海岸線の上昇。
主要産業地域は水没し経済システムは動揺する。農地は荒廃し、力のない国家より脱落し始める。
脱落した国家は当初、未だ以前よりの力を維持している国家に支援を要請するも、それが聞き入られないと判ると、連合し最終手段へ訴えた。
彼らは脱落国家とはいえ、(いや、経済システムが崩壊したからこそ)巨大な軍隊を維持していた。
彼らは武装移民と化し、より豊かな土地へと移動を始めた。
「恐るべき泉の大いなる王
救われるものを御恵みによりて救いぬ。
あわれみの泉よ、我を救いたまえ」
いくつもの戦争が起き、多くの人命が失われる。
当初、豊かな国は脱落国家を楽々押し返すことができた。
しかし、彼らは他に手段が存在しないが故に諦めることを知らず、完全に崩壊するまで幾度も戦を始めた。
やがて、豊かな国は消耗し、脱落国家群の軍門に下ることになる。だがそれは新たな戦乱のきっかけに過ぎない。
なぜならば戦乱に疲弊した土地は「豊かな大地」足り得ないから。
「慈悲深きイエズスよ
汝の御生涯は我がためなり
その日、我を亡ぼしたもうな」
「我をさがし、十字架の刑によりて
我をあがないたもうた御方よ
その苦しみを空しくしたもうな」
そして、全ての人類は貧者となる。
貧者達はすでに国家を維持できるほどの力もなく、より小さなスケールの集団を作り、自らの安全を確保しようとする。
彼らは祖先達がそうしたように、残された僅かなものを奪い合い、結果、より貧しくなる。
「正義によりて罰したもう審判者よ
その日より先に、我にゆるしの
恩恵を下したまえ」
戦星はこの段階で到来する。
「我はとがのある者として嘆き
罪をはじて顔は赤らむ
神よ、こい我をゆるしたまえ」
「マグダラのマリアをゆるし
盗賊の願いをききたもう御方は
我にも希望を与えたもう」
戦星が世界を一周する間、日は姿を隠くす。
人々は戦星を目にするとき、体は硬直し、過去の全ての罪が暴かれるという。
「我が祈りはききいれらるる価値なけれど
御慈愛なる御方よ、あわれみによりて
我をとこしえの火に追いやりたもうな」
すでにこの辺りはファンタジーと呼ぶほか無いが、当時の記録では、いずれもこのような記述が残されている。
推測するに、紡ぎ人の能力の一種に身体の支配や記憶の読解があり、それらに近い能力を戦星が持っているのではないか?
そして、不適切な人間の体は塩に変化し、息絶えるという。
何故塩か?という疑問もあるが、これ以降の記録はThe BOOKにしか残されておらず、複数の資料より評価が出来ない。
故にこれ以後は我々の推測でしかない。
「羊の中に我を置き、
牝山羊から引きはなし、
御右へおきたまえ」
The BOOKによると、戦星に選ばれた人々は新たな名前、役割を与えられ、真に正しい世界を創るために働くという。
「呪われし者どもを罰し
はげしき火の中に落としたもうとき
我を選ばれし一人として招きたまえ」
我々は怒りの日、その日を境に全ての資料が断絶していること、そして先ほどのThe BOOKの記述に注目した。
つまり、戦星は怒りの日までに全人類の記憶を走査し、能力を評価する。
そしてその日に必要でないと判断した人間をを排除し、「使える」人間には記憶を書き換えることで別の人間に仕立てるのだ。
「灰の中に砕かれたる心をもて
ひれ伏して願い奉る
我が終わりの時をはからいたまえ」
こうして、怒りの日の次に朝より戦星の望む、いや、戦星制作者の望む世界が始まるわけだ。
「罪ある者が判きのため
ちからよみがえるこの日こそ
涙の日なり」
この千年間の最古の(つまり怒りの日が過ぎてから最初の)記録は、厚い雲が切れ、太陽が復活する、というものらしい。
「願わくば、神よ、かれをあわれみたまえ
主よ、慈悲深きイエズスよ
彼らに安息を与えたまえ。Amen」
以上、「 」内はキリスト教聖歌、怒りの日より転載しました。
作詞はチェラーノのトマ(といわれている)。
訳は伊藤恵子です。
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