終章 The Time Aftre
「やっぱりコレなら似合うかな?」
明美は男物のマフラーを手にして呟く。
予備校と自宅の途中にあるショップに立ち寄った。
「珍しく明美が寄り道しよって言ったから付き合ったけど」
興味無さそうな視線で他の商品を見ていた女の子が呟く。
まさかクリスマスのプレゼントを買い出しなんてね。
と、とも付け加えていた。
「やっぱり、彼氏いたんだ?」
予備校で仲の良い留美がマフラーを選んでいる明美に近づく。
道理で合コンに誘っても来ない訳だと、一人で納得する。
「い、いないいよ。」
顔を赤らめて左手を左右に振り明美が否定する。
「同じクラスの友達よ。」
「ほんと〜?まあ、いいけど。」
留美は目を細め横目で明美の表情を伺う。
お父さんか弟へのプレゼントと言っておけば良かったと明美は後悔する。
幸い留美とは高校が違うことに感謝した。
「その男子ってどんなの?」
留美の興味は目の前の男物の商品より明美の男友達の方にある。
「うん‥顔は普通かな?でも、やさしいから。」
広げたマフラーをたたみ棚に戻しながら明美は答える。
先ほどのマフラーを選んでいる目とは違い少し遠くを見ている様だった。
「ふ〜ん‥惚れてるんだ!」
明美の不陰気の変化に気づいた留美が両手を自分の頭の後ろで組む。
これをキッカケに告白すれば?とも付け加える。
「え!だ、だめだよ。」
突然の留美の提案に明美は驚く。
「その男子って‥彼女いるの!わあ、明美もやるね?」
「いないと思うけど、ただ幼馴染の娘もどうも誠志君のこと‥。」
明美は誠志と幼馴染のことや流れているウワサ話を留美に話す。
学校帰りに喫茶店で二人で仲良く話していたことも全て話した。
「そうなんだ、でも付き合って無いんでしょ?」
留美はワザと明美から視線を外して呟く。
「誠志君って男子も否定しているし、チャンスありじゃないの?」
彼と一緒にいて明美はどうなの?と真面目な顔で留美が付け加える。
「え‥!楽しいし、本当の自分を出せるから。」
顔を赤らめて応える明美。
それを見ていた留美は明美が棚に戻したマフラーを手にして明美に渡す。
「これなら大丈夫だと思うよ。」
「やっぱ、告白しちゃいなよ、今日はクリスマスイブだしね。」
留美は言いたいことを言うと返事を待たず明美を両手で押してレジに連れて行った。
「ちょ、ちょっと留美‥。」
「ついでに今から彼を呼び出して告白すれば?」
自分の右の掌を軽く叩きながら留美が明美に言う。
寒空の中、大きなビニール袋を下げて商店街の歩道を歩く男いた。
時々立ち止まり手にしているメモを確認している。
男の正体は誠志である。
「誠志、早くしないと遅れるよ。」
誠志の前を歩いていた女の子が振り向き言う。
「わかってるよ!」
目の前にいる美鈴に言う。
マスターも人使いが荒いよな、と誠志はメモを見ながら思う。
エアメールで行うクリスマスのパーティーに招待されいる二人は街中を歩いている。
「毎年恒例だけど‥何故かな?」
俺の招待状だけに買出しのメモとみんなより早い時間になってるんだろう?
誠志はわざと考えるフリしながら美鈴に言った。
「なんでだろうね?」
軽く笑いながら美鈴が応える。
「で、買い物は終わったの?」
今度は美鈴がたずねる。
手にぶら下げている袋の買った品物とメモを確認する。
「大丈夫、さっきのクラッカーで終わりだ。」
誠志は自身有り気に応える。
「終わってないよ。」
美鈴がポツリと言った。
「ま、待てよ。全部買ったハズだぞ。」
美鈴は軽く首を横に振る顔を誠志に近づける。
「私へのクリスマスプレゼント!」
「はあ?あのな〜。」
カラン‥‥扉についた小さなベルがお客を知らせる。
相変わらずコーヒーの香りが立ち込めている。
「あれ?マスター、扉のベル変えたでしょ?」
音の変化に気が付いた誠志がカウンターにいるマスターに尋ねる。
「お、来たな?買出しご苦労さん!」
入り口のアレか?今度のヤツもいいだろう?と付け加えた。
「うん、いいね。」
誠志は美鈴とカウンターテーブルの席に腰を下ろしながら言う。
「そうか、お前たちも気に入ったか!」
マスターは嬉しそうに言う。
「寒かっただろ?これでも飲めよ。」
カウンターに煎れたばかりのコーヒーが二つ出された。
新しいベルは以前、旅行先でマスターの奥さんがお店用に買った物だと教えられた。
「新しいベルもいいけど、お店の感じ私は好きだな。」
両手で包むようにカップを持っている美鈴が囁く。
「確かにな‥。」
店の不陰気が気に入っている誠志も同意した。
この喫茶店の常連の客の中には態々ここで式を挙げる人もいるのだから。
3月の卒業式の打上げはここでやろう、と誠志は心に決めている。
考え深げに顔を下げていた美鈴が顔を上げマスターの方に見る。
「マスター、私たちもここで式挙げていい?」
突如とんでもないことを美鈴がマスターに言った。
「ぶ!」
誠志は口に含んでいたコーヒーを噴出しそうになる。
「お、おい‥美鈴!」
慌てて無理やり飲み込むと美鈴を問い詰める。
「冗談よ、冗談!」
笑いながら美鈴は言った。
「給食の牛乳飲んでいるときのイタズラよりヒドイな。」
二人のやりとりを見ていたマスターは笑いながら言う。
冗談にも限度があるだろ?と誠志は思った。
時として人は冗談の中に本音を入れて相手に話す時があることを誠志は知らなかった。
そのことを誠志は数時間後、美鈴の口から本心を聞かされ思い知るのだった。
「あ〜あ、お前が変なこと言うからコーヒー噴きそうになっただろ?」
誠志は落ち着くと美鈴に言う。
「あはは‥ゴメンネ!」
陽気に笑いながら美鈴が応える。
心の中では、この鈍感!という言葉が思い浮かぶ。
「大体、いつも‥」
途中まで言いかけたが誠志はやめた。
誠志の上着のポケットに入っている携帯が着信を伝える為、振動している。
携帯を取り出し着信の名前を確認する。
『着信!‥南雲明美』
ブランチ ロード -The Time Aftre -
完 結