ブランチ ロード -The Time Aftre -

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第10章 迷宮の妖精

『5分後に見付経由磐田駅行きが到着します‥。』
駅前のバスレーンにスピーカーから次のバスの到着予定時刻が告げられる。
「これで、7台目かぁ‥‥。」
沈黙を破りたっかのか、バス停の近くにいる男女二人の女の方が呟く。
バスレーンで行き交う人の流れを見ていたが、隣の男に視線を移した。
声の正体は美鈴だった、幼なじみの誠志が隣にいる。
「そうだな。」
誠志は駅に出入りする人の波に視線を定め、振返らず応える。
「ねえ、奈美‥無事かな?」
美鈴は何時もとは違い元気が無い声でささやいた。
誠志は何も応えず黙っていると、いうより応えられなかった。
そうだよね、解らないよね。
心の中でささやき視線をバスレーンに戻す。
二人は昨日から行方不明の後輩の奈美を捜す為、二俣線の駅前に立っている。
お互いにバスレーンと駅入口と分担して行き交う人ごみに奈美の姿を捜している。
相変わらず誠志は右手で頭を掻きながら自分の担当の駅の入口を見張っている。
『このバスは見付経由磐田駅行きです‥。』
到着したバスから行先案内が流れ乗客が降りてきたが、奈美の姿はない。
その光景に美鈴は落胆を隠せなかった。
また、ダメだった‥声には出さなかったが、美鈴の脳裏をかすめる。
不安が身体全体を包んでいく感じが次第に強くなる。
8台目のバスが到着したとき美鈴の不安は限界がきた。
「もう限界、だって‥!」
美鈴は隣の誠志のいる方に振返り訴えかける。
え、誠志‥?どこ?
さっきまで居た場所に誠志の姿が無かった。
慌てて周囲を見渡すが、やはり居なくなっている。
美鈴は目の前が暗くなっていき体が震え出した。
両手を自分の両肩を掴み震えを抑えが収まらない。
美鈴自身、目に涙が溜まりだし視界が歪んでいくのが理解できた。
「おい、美鈴!」
美鈴の前に学生服を着た男が立ち声を掛けてきた。
「誠志!」
思わず学生服を着ている男の名前を叫ぶ。
次の瞬間、美鈴の身体に虚脱感が覆いそのまま地面に崩れていく。
視線は目の前の誠志ではなく遥か遠い冬の寒空を見ている様だった。



街角の喫茶店の扉が勢い良く開き男と女が入って来た。
「ホットミルク!」
男はオーダーを告げると何時ものテーブルのソファーに女を座らせた。
「美鈴、大丈夫か?」
「うん‥」
男の問に美鈴は先程より少し元気な声で応える。
少しぎこちない応えに誠志は逆に心配になってくるが表情には出さずにいた。
誠志は右手で頭を掻きながら向かいのソファーに腰を下ろす。
「ほい、ホットミルク!」
二人の間にマスターの声が入ってきた。
手に持っているホットミルクの入っているカップを美鈴の前に差し出す。
「飲めよ、元気になるぞ。」
美鈴は誠志に促がされカップを手にし口に運び流し込んむ。
あったかい‥。美鈴は思わず感想を口にした。




「だろ?少しは落ちついたか?」
誠志は得意そうな表情で応える。
一口飲み軽く深呼吸して美鈴は頷いて応える。
「悪かったな、一人にして。」
奈美ちゃんに似た女の子を見かけたから確かめ様と場所を離れたと、付け加える。
結局、誠志の見かけた女の子は他人の空似で奈美本人ではなかった。
「誠志は悪くないよ。ごめんね、私がもっと確りしないといけないのに。」
誠志の謝罪に首を横に振り申し訳なさそうな表情で美鈴が誤る。
ぶる!ぶるるるる‥‥!
誠志の制服のポケットから着信を知らせる振動が伝わってきた。
慌てて誠志は携帯電話を取りだし電話にでる。
「俺だけど、奈美ちゃん見つかったぞ!」
耳にあてたスピーカーから少し興奮した竜太の声が飛び込んできた。
「ホント?一体どこで!」
誠志は信じられない知らせに声が裏返る。
竜太は美術館入口の階段に1人で寂しく座っている奈美を見つけた説明した。
すぐに声を掛け自宅に連絡させて迎えに来てもらった。とも付け加えていた。
誠志の尋常ではない反応に美鈴は身体を乗り出してる。
「解った、じゃあエアメールにいるから合流してくれ。」
誠志は竜太に集合場所を告げると電話を切った。
「おい美鈴!奈美ちゃん見つかったぞ!」
「ホント、無事なのね?」
ホットミルクのカップを手にしている美鈴の顔に明るさが戻る。
「ああ、竜太と明美さんが美術館で見つけてくれたらしいよ。」
すぐに家の人に連絡して迎えに来てもらった。とも付け加え経緯も話した。


心地よいアコースティックな音楽が店内のスピーカーから流れている。
マスターの趣味だろうか?悪くないと誠志は思える。
美鈴は奈美が見つかった安心感からか表情も明るくなっている。
チリン‥‥。
店の入口に付けてある開閉を知らせる小さなベルが鳴りお客の来店を知らせる。
外の冷たい外気と一緒に見覚えのある男が女の子がお店に入って来た。
「いらっしゃい‥お、集まったみたいだな?」
カウンターで仕事をしていたマスターが入って来たお客を見て言った。
お客の正体は竜太と明美だった。
「おい。無事に終ったぞ。」
竜太は座っている二人に結果を告げると誠志の隣に腰を下ろす。
それと同じに明美も美鈴の横に腰を下ろした。
「明美さん、ありがとう助かったよ。」
誠志は明美に礼を言うとマスターにブレンド2つとカフェオレを注文した。
竜太が俺には何もないの?と隣の誠志に聞いたが受け流す。
「お前はいいの。」
誠志と竜太のやり取りに4人は笑い出した。
「二人ともありがと。」
「うん、無事に見つかって良かったね。」
お礼を言った美鈴に明美が笑顔で応える。
実は二人とも教室に戻った誠志に協力を申し出てくれたのだった。
もっとも明美は竜太が巻き込んだと言った方が正解なのだが。
「でも、奈美どうして家を飛び出したんだろう?」
誰に言うわけでもなく美鈴が口を開いく。
当然の疑問だろう、誰も訳も無く行動はしない。
まして今回のことなら当然だろう。
「それは明美さんが聞いたんじゃない?」
竜太が応える。ほら、家の人が迎えに来るあいだ奈美ちゃんと話していたから。と続けた。
ブレンドとカフェオレがテーブルの上に置かれそれぞれ口にする。
明美は奈美との会話の中で聞き出した家出の理由をみんなに話した。
最近、夫婦ゲンカか二人がよく言い争っているのが耐え切れなくなり家を飛び出したらしい。
後になって解ったことだが、二人は奈美の今後について真剣に話合っていて熱くなったとも。
ただ、誠志達が本当の意味で理解出来たのはずっと先の話だった‥‥。



ぐう〜!
空腹を知らせる音がテーブルの向かいから聞こえ誠志が訊ねる。
「今の誰?」
「私だよ、私!安心したら‥‥あはは。」
少し恥ずかしそうに美鈴が応える。
ホント、お前らしいよ。と誠志が苦笑する。
「お昼過ぎてるからね。」
明美が少し笑いながら誠志に続く。
「遅いけど、昼メシ喰おう、メシ!」
竜太の提案に他の3人も同意する。
「マスタ〜、今日のランチは何?」
いつも調子で美鈴がマスターに訊ねる。
「海鮮カレーとサラダ‥‥と、アキハブレンドをサービス!?」
4人とも海鮮カレーとサラダのセットを注文した。
遅い昼食が出来あがるあいだ学校での出来事なので会話が盛り上がった。
「あの時の先生の顔‥‥あはは!」
「爆山爆弾事件か!」
竜太が先月起きた学校での爆発騒ぎを話出し誠志も続いた。
「消防車が来てたよね、結局、何が起きたの?」
他の3人とはクラスが違う美鈴には何が起きたか詳しい話は知らない。
解っているのは、大音響と消防車が学校にやって来たぐらいだった。
「社会の授業中に爆山の爆弾が爆発した。」
「え、そうなの?」
美鈴の問に腹を抱えて笑っている誠志が応える。
「あの時、爆山君が先生に叫んでたよね?」
「えっと‥確か、天誅!」
明美の言葉に竜太が続く。
「お前が天誅だ!って、感じだよ。」
誠志のツッコミにみんな笑った。
「また、作っているらしいよ。」
ウワサだけど卒業記念爆弾らしいと明美が付け加える。
「え!本当?」
美鈴が驚いた表情で応えたが目は笑っている。
そんな表情を見た誠志は心の中で何時もの美鈴に戻ったなと、安心感を憶える。
何時しか4人はコーヒーとカレーの香のする空間の中で話している。
街中にはクリスマスのイルミネーションが点灯されて始めていた‥‥。


 第10章 迷宮の妖精  完

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