ブランチ ロード -The Time Aftre -


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  第4章 最高の睡眠薬

 乾いた黒い板を軽く叩く音がする。
昼飯後の授業はどんなに授業でさえ眠くなるものだ。
「これを解くには昨日の授業で教えた公式で解くことが出来る。」
黒板に呪文に似た数式が踊っていた。
事実、教室にる生徒の半分は眠っているのだ。
「まあ、応用問題が出題されても基礎が出来ていれば簡単だ!」
‥‥本当かよ?誠志は思った。
生徒に「眠りの呪文」をかけた先生が振り返った。
「時間が少し早いがこれで終わる‥‥。」
そう言い残すと先生は教室を後にした。
「起きろ、終わったぜ!」
軽く拳を作って目の前にある背中を叩いた。
「う、う〜ん‥あ!」
教科書を枕にして眠っていた竜太が目を覚ました。
「おはよう!」
竜太は振り返り軽く手を上げて誠志に応えた。
ついでに、清々しい朝だね?とも言ってきた。
「バカ、もう放課後だ!」
お決まりのボケとツッコミを交わした。
「お前、今日は殆ど寝てたな?」
教科書を机に入れながら誠志は訊ねた。
どうせロクな理由じゃないのは解かっていた。
「新作ゲームが面白くて気が付いたら朝だよ。」
帰る仕度をしながら得意そうに竜太が応えた。
「終わったら貸してやるよ。」
枕にしていた教科書を机に入れながら顔だけ誠志に向けている。
アレはゲーマーの義務だよと、付け加えてきた。
「じゃ、帰ってゲームするから。」
そう言い残すと竜太は急いで教室を飛び出した。
竜太のゲーム好きは知っているが今度の反応は珍しい。
いつもなら、こんなクソゲーやってられん!が評価の殆どだからだ。
(そんなに面白いんだ‥‥今度の新作)
バイトを始めてからゲームやる時間が減ってたことに気が付いた。
(あ、今日はバイトだ!)


「ねえ、誠志君‥。」
隣の席の女の子に呼びとめられ首を声の方に向けた。
「明美さん‥‥何?」
明美の机の上にはさっきの数学の授業の教科書やノートがそのままあった。
「さっきのの公式理解できてる?」
座っている椅子を誠志の方に少し移動させて身を乗り出してきた。
誠志は再び自分の席に座り明美の方に体を向けた。
「うん、一応。」
わざと視線をずらし頭を掻いてみせた。
数学は嫌いでも苦手な教科ではなかったのだ。
かと言って自慢するのもイヤだし、と誠志は思った。
「あのね、ちょっと教えてくれないかな?」
明美は軽く笑顔を作って誠志に頼んできた。
「別にいいけど、ただ‥。」
誠志は再び頭を軽く掻き自信無さそうに応えた。
「あ、今からアルバイトのな?」
口を明けながら気が付いたように明美が反応した。
「大丈夫だよ、バイトまで時間があるから。」
誠志は笑いながら応えた。
「ただ、上手く教えて上げれないけどね?」
さっき言えなかった言葉をあえて言い、それでもいいの?と付け加えた。
明美はその言葉に大きく頷いた。
誠志は自分の席から立ちあがり明美の前の席に向かい合うように座った。
「じゃあ、この式は公式を使と‥‥」
「こうなるから、ここを‥‥。」
真剣に説明する誠志の表情を明美は時折見ていた。
昨日の街で見た光景に似ていると思えた。
心の片隅で誰かに見られたいと願っている自分にも気がついた。
「これで解かったかな?」
一通り公式の説明が終わり誠志は顔を上げた。
「じゃあ、この問題もやればいいのね?」
うん、そうだよ。明美の反応に誠志は応えた。
「これで解からないとこはない?」
「うん!」
明美は明るく誠志に応えた。
少し日の陰った教室で二人は2、3会話をしてその場を後にした。
教室で会話しているとき、明美が廊下を気にしている様に思えた。
(友達か誰か来るのかな?)
校舎の中は静まり返り外からは金属バットの音と野球部の声が聞こえていた。


明美の帰りの支度も終り二人は一緒に教室を後にした。
途中、誠志はトイレに行きたくなり、明美と別れて反対の方向に歩き出した。
ふう〜、間に合った!誠志がトイレを済まして歩いていたときだ。
「しまった!ちょ‥‥」
ボン!
静かな廊下に慌てた声と何か爆ぜた音のした。
誠志は階段を駆け下りて音のした2階に急いだ。
「げほ、げほ‥‥。」
「やっぱり調合で失敗したか。」
化学室の扉が開き煙とともに一人の男が現れた。
現れたのは同じクラスの爆山だった。
ちなみに本名は山田孝雄らしいが爆弾作りが趣味なので爆山と呼んでいる。
「誰かと思えば、誠志君。」
誠志より先に爆山から声を掛けてきた。
また爆弾が暴発したんだな、と誠志は思った。
「また、爆弾でも作ってたのか?」
懲りないヤツだな、とも続けて言った。
「頼むから全て忘れてくれないか?」
誠志に詰寄り温泉の匂いのする白衣の下からケースに入った光る円盤を取り出した。
苦手な白衣温泉の匂いに誠志は顔を反射的に背けた。



その反応に爆山は何か勘違いしたらしく光る円盤を誠志のポケットに押し込めた。
「何んだ?」
爆山の異常な行動に誠志は驚いた。
商談成立だよ‥と、軽く笑いながら爆山が応えた。
「君は何も見ていないし、僕は‥」
「解かった、解かった!」
要するに黙っていてくれってことだろ?と付け加えた。
(たく、素直に言えばいいのにな。)
多少、腹が立ったが変態を相手にする気になれず我慢した。
「じゃあ、失礼するよ。」
そう言うと、怪しい煙が立ち込める化学室に爆山は姿を消した。
これから後始末だな?と一人で納得すると誠志は階段を駆け下りた。
窓ガラスから入ってくる光が徐々に弱くなっていくのが意識しなくても分った。


カタカタカタ‥‥‥‥
軽い音がビルの一室の一角から聞こえてくる。
連続して聞こえてくると思えば時には止まりまた聞こえだした。
その音は溜息と同時に静寂が訪れた。
(あ〜あ、無理だよな‥‥)
誠志はモニターを眺めながら頭を抱えていた。
失踪中の社員大原の代りにプログラムを作っていた。
他人のプログラムの続きなんて‥‥と思い軽く舌を打った。
「これは制御系、計算ルーチンは‥‥これかな?」
モニターに問いかけるが、もちろん返事はない。
「この処理とこれはセットになっているハズ!」
誠志は勝手に判断した。
作業を始めて何時間は経ったのだろうか、徐々に気力が無くなっていくのが自分でも判った。
誠志は意識が朦朧となるのが自分でもわかった。
眠気覚ましに机の隅に置いた缶コーヒーを口に流し込みんだ。
(そうだ、爆山のアレがあったな?)
誠志は爆山に強引にもらった光る円盤を思い出し制服のポケットに手を伸ばした。
ポケットから取出す寸前で手が止まった。
これウイルスとか大丈夫かな?と、反射的に思った。
(ま、俺のじゃないし‥‥)
と暗黒な勝手な思いもした。
10‥40‥70‥
爆山のディスクはセットされると自動的にセットアップが開始された。
「やはりアップリか、爆山だからエロだな。」
誠志は煙草に火をつけ、背伸びをするフリをして辺りを見回した。
(沙織さんは‥‥よし!仕事に夢中だ!)
でもね、息抜きも大事だよ!っと心の中で沙織にささやいた。
‥85‥100%とモニターの表示された。
セットアップが終了しオープニングが流れたのである。
(おい、これって‥‥マズイな)
モニターに表示されたCGを見て誠志は思った。
何せ初っ端から強引なシーンである。
(でもCGは綺麗だ、最近はこれが普通かな?)
コツコツ‥‥!?
誠志は音を絞っているスピーカー以外から音がしているのに気が付いた。
反射的にESCのキーを押して音のする方向を見た。
「あら?今日は珍しく真剣ね。」
「げ!‥‥沙織さん。」

第4章 最高の睡眠薬  完



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